月に吠える −筑前・時事評論あるいはボヤき by Inoue Chikuzen
4.平成21年2月7日(土曜日) −処女出版体験記−
私はこの度、自分がHP「邪馬台国大研究」に発表していた文章を一冊の単行本として出版しました。邪馬台国には昔から興味があった
ので、思いついた考えと読書で得た知識とをHPに纏めていたのですが、4,5年前、HPを見た元産能大学教授の安本美典博士が、自
分の編集する「季刊 邪馬台国」(福岡市梓書院から年4回発行)という雑誌に連載してくれたのです。昨年末までで15回の連載です
から、約4年間連載して貰った事になります。それを発行元の梓書院がこのたび単行本化してくれたのですが、アマチュアにとって「本
を出す」という事がどういう事なのか全く知識の無かった私には、結構驚きの連続でした。これから本を出そうという方、或いは、出版
に興味のある方々に何らかのお役に立てればと思い、このレポートを認(したた)めました。
1.執筆
まず一番大変なのは当然「執筆」です。原稿が無ければ本はできません。いつだったか、作家の五木寛之氏がラジオで語っていました
が、出版社の、作家に原稿を書かせる体制はすさまじいものだそうです。締め切り迫った原稿を書かせるために、ホントにホテルの一室
に閉じ込められて、原稿が出来上がるまで部屋から出してもらえないのだそうです。五木氏は「なんで俺ばかりこんな目に」とボヤいて
いたら、「前の部屋には山口瞳が、その隣には開高健が同じように書いてましたよ、ハハハ。」だったそうです。私より1年ほど前に、
同じく邪馬台国の本を自費出版した高校時代の友人がいるのですが、彼も半年間会社に行かず書きまくったそうです。彼はIT会社の社
長なので、「その間会社はどうしてたん?」と聞くと、「ハンコの要るときだけ会社に出向いて、後はブレーンに任せていた。」と言っ
ていましたが、社長だから出来る技(わざ)で、一般のサラリーマンはとてもそんな訳にはいきません。幸い私の場合は、HPにある原
稿を、しかも雑誌に連載してくれていたので、原稿も活字データも、もう揃っていた事になります。
2.校正
次に来るのが校正です。出版社によると、「著者にとってこれが一番ツラいらしいです。」と言っていましたが、これも私の場合は
HPにすでに発表しており、HPを制作してから10年間、幾度となく読み続けてきた文章ばかりですから、この作業も割とすんなり終
わりました。とは言っても、三度、出版社と分厚い原稿のやりとりをしました。もうHPとして文章はINTERNETの中にあるのだから、
それを見てそのまま校正としてくれればいいじゃないかと思うのですが、校正は実際に本になったような印刷物で行うのです。広いB4
くらいの大きさの紙の真ん中に、実際本になったときのようなページが一枚に2ページづつ印刷されています。これを一言一句読んで、
句読点、誤字脱字を訂正してゆくのです。広い余白は、どうやらそこに訂正内容を書き込むために、わざと広く開けてあるもののようで
す。私もだいぶ文章を追加しました。宅急便で重い原稿の束が三度送られてきて、三度また送り返しました。それでも本になった文章を
読むと、○や点が抜けている箇所が幾つかありました。
3.装丁
文章の校正が終わると後は出版社まかせです。私はすることがありません。しかし実は、出版社の担当者からの電話連絡は、これか
らが一番多いのでした。私は知り合いの洋画家の先生の絵を表紙に使わせて貰ったのでその点も楽でしたが、前述した友人の話では、表
紙のデザイン、色や校正など頻繁に出版社とやりとりをしたそうです。出版社にも何度も足を運んだそうです。彼の場合は自費出版です
から 気に入るまで何度もやり直したのでしょう。 私は大阪にいて、出版社と離れていることもあって、しかも出版社が自前で出してく
れる(これを企画出版と呼ぶそうですが)本ですので、「もう任せますから、いいようにしてください。」と返辞しました。実際「ただ
で本を出してくれるんだから、あまり注文を付けても」という気があったのも事実ですが、出来上がってきた本が、栞のヒモも付いてい
ない「PAPER BACK」だったのはすこし不満でした。しかし出版社としては、少しでも経費を抑えるためにこういう装丁にしたのでしょう。
4.印刷
校正が終わってから、実際に本が出来上がるまでは相当な日数がかかります。私が校正を終えたのが10月の終わり。11月からは
吉永小百合主演の映画「まぼろしの邪馬台国」が封切りになるので、出来ればこの映画が上映されている間に出版されれば、相乗効果で
本の売れ行きがいいかもしれないと密かに目論んだのですが、11月半ばになっても担当者から連絡はありません。「このままでは映画
が終わってしまうがな」と心配して電話をすると、「もうしばらくかかります」との事。やきもきしながら待ってみても、十二月に入っ
て「まぼろしの邪馬台国」は「不評につき上映打ち切り」というような噂が流れてきました。この2ケ月間はほんとにヤキモキしました。
廻りには本が出ると触れ回っているし、HPでも宣伝しています。みんなから「いつ出るんや?」とか、「本屋行ったけどまだ並んでな
いで」とか言われるし、そうこうしているうちに、とうとう12月も中旬を過ぎました。また電話をすると、「決まりました!26日に
印刷が上がります。」との担当者の返辞です。「あぁあ、26日て、もう会社終わりやん。正月休暇やがな。その後はだれも町の本屋に
なんかわざわざ行かへんで。」とガッカリしました。映画はほんとに終わってしまいましたし、本と映画とタイアップという夢も消えて
しまいました。うまくいけば吉永小百合に会えるかもしれないと思っていたのに。
5.業界
年が明けて、第二週目に博多へ帰りました。私の郷里は福岡なのですが、正月には帰らなかったので、表紙の画を使わせてくれた洋
画家青沼先生の新年会パーティーに参加して、帰省したのです。そのパ−ティ−で私の本を出してくれた梓書院の社長、会長、担当者と
話してきました。そこで聞いてきたことをお知らせします。私も出版の世界は初めて体験するのですが、そうとう前近代的です。まず、
(1).NET本屋との関係
基本的に紀伊国屋や旭屋書店にとって、NET書店は競争相手であり、最初からAMAZON等に登録していくと、本屋に置いてくれな
いという事情があるようです。
(2).書店に並ぶのも、書店に対して営業をかけないといけないらしく、無名の著者では置いてくれても1,2冊らしいです。大手書
店でも、たとえば「歴史・文学」棚を担当している担当者の好みで1冊にも30冊にもなるらしく、有名人の本や、マスコミ
で話題なったりするとガバッと置いてくれるらしいです。
(3).そのためには「井上さんも、マスコミに知り合いや知人がいたら、新聞や番組で取り上げてもらうよう働きかけてください。」
とハッパをかけられました。
(4).また私自身にもノルマを課せられ、100冊の割り当てがきました。おかげさまで、皆様の今までの注文分で70冊ほどは、既
にはけましたので、あと30冊、何とか売らねばなりません。「著者割り当て」などがあるとはつゆ知らず。これでもし100
冊売れなかったりしたら、何か自費出版と変わらないじゃないかと、ちょっと出版社に対して不満です。経費を取り返すまで印
税が無いなどというのも、どうもおかしいのではないかと。でもまぁ、自分の本が出たという事で満足すべきなのでしょうね。
それが出版社の狙いなのかもしれません。
6.印税
印税とは、著作権使用料です。本を出版するために、出版社が著作者に支払います。 一般に、出版物の場合、定価×印刷部数(若しく
は実売部数)×一定割合の印税が出版社から著者に支払われるようです。大手の出版社の場合、印税は10%となるのが通例だそうですが、
中小出版社や見込めない新人作家やライターの場合は10%以下になったり、流行作家では13%に上がることもあるようです。印税には、
発行印税と売上印税の2種類があり、出版物は通常買戻条件付販売形態をとるので、両者には差異が生じます。発行印税とは、最初に発
行部数を決めて、それに一定の金額(本の定価の5%程度)を掛けて、最初に支払ってしまう印税のようです。私の場合なら、定価2,800
円ですから、その5%の140円x発行部数となります。もし千部発行すれば、私は14万円もらえる訳です。売れなくても、千部完売
しても14万円ぽっきりです。売り上げ印税は、ある程度の売り上げに達した後、単行本の定価の10パーセントが、売れた分だけ(版
部数に応じて)支払われます。 ある程度の部数というのがくせ者で、出版社によって、或いは造った本の装丁によって異なるようです。
出版社の経費など著者には調べようがありませんから、どうもこの部分は不透明です。私の場合も売上印税で、初版で3千部刷ったらし
く、3千部以上売れればそれから先が10%の対象になるようです。しかし今回出版して分かりましたが、大評判にでもならない限り、
3千部売るなどと言うことは至難の業です。新聞の書評にとりあげられたくらいでは本は売れません。世間で言う10万部完売!などと
いうのはほんとに大ベストセラーなのです。もし3千部以上売れなければ、私には一銭も入ってこないのです。その代わり1万部売れれ
ば、7000x280=1,960,000円もらえることになります。10万部だと、(10万−3000)x280=26960000。
なんと2,696万円入ることになります。最近では、著者に有利とされる発行印税から、版元に有利とされる売上印税に移行しつつあ
るようですが、私もこの口のようですね。本が始めて出版されることを初版といい、次に出版されることを2版といいます。版が増える
その度に印税は支払われるのですが、私は初版の3千部を完売せず、おそらく一銭ももらえないで終わるのでしょう。
ちなみに出版物以外の印税について、
歌唱印税(歌唱や演奏に対する印税)は、レコード会社との契約で決まる印税で、売上げ全体の1〜2%だそうです。レコードなどの場
合は、レコード(CDやDVDなど)売上額や放送、カラオケなどの著作料から支払われます。作詞者・作曲者の印税は、売上げ全体の6%だ
そうですが、音楽出版社と分けるので、作詞者・作曲者それぞれに1.5〜2%が入ります。
原稿料とは、原稿を書いた収入のことです。小説は400字詰め原稿用紙1枚につき計算され、コラムやエッセイは一本いくらで計算さ
れます。小説の原稿料は1枚につき、3,000円〜60,000円など、実にさまざまです。原稿料の開きは、新聞・週刊誌・月刊誌
・一般雑誌・小説雑誌などの掲載紙の違いや、小説家の知名度によって変わります。同じ掲載祇でも、無名の新人が書いた原稿料と、有
名な小説家が書いた原稿料では、桁の1つ違いなんて珍しくないようです。
7.おわりに
以上、処女出版の体験記をご披露しましたが、私は一銭も出さずに自分の本が出たのでそれでよしとしています。ちなみに前述した
友人の場合、同じく3千部刷って、自分は270万円負担したそうです。最初の見積もりは380万円だったそうなので、出版社が100
万円負担していることになりますが、これを見ても3千部完売しないと印税がでないというのは、どう考えてもおかしいですね。2千部
売れれば出版社は元を取るはずです。あるいはもっと少ないかもしれません。しかし、それを追求して出版社との関係がおかしくなるの
も嫌なので、処女作が出たことで満足する事にします。社長も友人ですし、今後もその出版社とは付き合っていくつもりですので。
ということで、この体験記が、なにか皆様の参考になれば幸いです。是非、本を買って廻りに薦めてください。
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