この絵は変わっている、というか奇妙である。「空間充填欲求」に打ち勝って(?)中央に大きく絹本の余白が見えるのも珍しいが、 絵全体が、陸地の岸辺から見た光景なのか水中から見た光景なのかよく分からないのである。蓮はぬかるんで汚れた泥の中で育ち、 その葉と花は水の上に出てきて華麗に開花する。そのため仏教では蓮の花は、俗世間から抜け出した極楽浄土を象徴するものとして、 古来から幾多の絵画に描かれて居るし、多くの仏像は蓮の花びらの中に鎮座している。 また蓮の花は、春に育ち夏に開花して、秋に萎み冬には立ち枯れて次の世代に命をつなぐ。それがこの絵では、池か沼かの底に、既 に枯れた蓮の葉も見える。その左には、今を盛りとほころぶ蓮の花がある。まるで季節や遠近感を無視している。どこまでが水中な のかまるで分からない。極めて観念的な絵であると言えよう。