バードウォッチャーとしての写実的な観点から言わせて貰うと、真ん中に数羽いる小禽類はどうみてもホオジロだと思うのだが、
	ホオジロはこういう低木の枝で群れたり、花びらに留まったりは決してしない。ホオジロは樹木の天辺だとかTVアンテナの先
	とか、高いところにはよく留まって囀るが、低木で見かける事はあまりない。また、たまにツガイで居ることはあるが、数羽で
	群れる事もない。若沖の絵には、こういうあり得ないシチュエーションというのが結構ある。「蓮池の魚群」も鮎と山女魚が蓮
	の花の下を泳いでいるが、蓮が咲くような池に鮎はともかく山女魚などは絶対いない。つまり、若沖の描く世界は決してリアリ
	ズムの世界ではないのだ。
	しかしながら、この絵の色彩世界はすばらしく、構図もはなはだしく現代的である。S字型の小川に咲く大きな菊の花。そこに
	ディフォルメされた岩山と、枯れかかった菊の葉の垂れ下がり。そしてそこに群れる小禽。ここでは空間を埋めることはせず、
	大きな平野を流れる大河のようなイメージの川の流れ。題材が見事に一幅の絵の中に収まっている。裏彩色あってこそ描ける絵
	だ。一見華やかな菊が咲き誇る絵だが、よく見ると葉っぱは黒く立ち枯れ、自身の重みで水上に落ちている菊もあり、栄枯盛衰
	を表しているそうだ。この絵は、「動植綵絵」中の最高傑作と言う人が多い。私は賛成出来ないが。

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