Music: moon river
堺ウォーキング
2001.6.24(日) 



		松虫(まつむし)塚/小町塚

		地名の由来にもなっている松虫塚(まつむしづか)は、停留場から西南へ約300m。この塚にまつわる話は
		いくつかあるが、松虫(現在の鈴虫。古名の鈴虫は今の松虫のこと。)の美しい音に誘われて野辺にさまよう
		うちに、この地で死んだ若者を慕って、その友人が嘆き悲しんだという伝説「松虫」もその中の一つとして伝
		えられている。(停留所:阪堺電車「松虫」駅。「東天下茶屋」からも歩ける。)
 



		月の美しい秋の夜。友人同士が阿倍野の松原を散歩していたが、ふとある茶店に立ち寄り、床机に腰をかけ
		て、草野に冴え渡る松虫や鈴虫の声を愛でながら、楽しく酒を酌み交わしていた。夜もかなりふけた頃、虫の声
		に聞き惚れていた一人が、美しい松虫の声に誘われるように草むらに分け入った。相当酔っていて足元が少し
		ふらついていたが、おそらく彼は草の上に寝ころんで、萩の間から洩れる月の光を浴びながら、松虫の声を楽し
		みに行ったのだろうと、残った友はあまり気にとめなかった。
		しかし、いくら待っても帰ってこないので、友は広い野原をさがしまわったが、月の明るい夜とは言え、なかな
		か見つからない。やっと夜明け近くになった頃、露の降りた草のしと寝に横たわって、冷たくなっている友の姿
		を発見した。残った友は親友の遺体を泣きながらここに埋葬した。
		それからは毎年、月の美しい秋の夜にその残った友達が、一人で茶店を訪れるようになった。茶店の主人は彼
		を見かけても、話しかけない。彼は草むらの方を向いて、月影を宿す盃の酒を口に含みながら、美しい松虫の声
		にじっと耳を傾けているが、やがてフッとその姿がかき消えてしまったと言う。

 



 



		また「松虫」駅の近くには、後鳥羽院の御代、官女松虫・鈴虫が法然上人に帰依して出家したのが逆鱗
		(げきりん)に触れ、上人は土佐へ流され、鈴虫は行方知れずになり、松虫はこの土地へ来て亡くなった
		ので、塚に葬って松虫塚と名づけたという伝承もある。


		後鳥羽上皇に仕える官女のなかに、姉は松虫、妹は鈴虫という美人姉妹がいた。二人とも名前の通り、澄み
		切った美声の持ち主で、上皇の寵愛も深く、他の官女からも妬まれるほどだった。
		ある日、京都鹿ヶ谷で法然上人の念仏道場が開かれ、庶民の人気を集めている、と言う噂を耳にした松虫と
		鈴虫は人目を忍んで道場へ法話を聞きに行く。張りのある美しい声で、経を唱える安楽と住蓮という二人の
		若い僧に、姉妹は憧れを抱くようになり、上皇が熊野詣での旅に出かけた留守中、宮廷を抜け出して道場へ
		行き、尼になる。
		熊野詣でから帰った上皇は、許可なく姉妹を出家させた法然道場に対し激怒する。「念仏停止」のお触れを
		出し、法然や親鸞は流罪に、住蓮と安楽は死罪になった。松虫と鈴虫は都から逃げ出し、奈良や紀州の粉河
		などを転々とするが、法然上人らがその後流刑を許されて帰京し、各地で布教を行い、大阪の一心寺にも来
		て法話していることを知る。姉妹は一心寺の南、聖天山古墳の近くに庵を結んで住み、法然上人が滞在した
		ときは、ここから法話を聞きに通い続けた。ある夜、松虫が、虫の声を聞くためか外に出たまま帰ってこな
		いので鈴虫が探したところ、明け方になって草むらの中で息を引き取っている姉を見つけた。鈴虫は涙なが
		らに松虫のなきがらを葬り、松虫庵を出ていずこともなく立ち去ったという。






		いずれの伝説もロマンチックだが、どうやらここで誰かが死んだ、虫の音がきれいな野原だった、と言う
		点が共通している。昔は、虫の音というのは何か妖しい想像を醸しだす要因だったのかもしれない。

		この松虫塚から、西に向かってレンガ敷きの「歴史の散歩道」が続いている。阪堺線聖天坂(しょうてん
		さか)停留所を越えて、向かい側の旧住吉街道まで、静かな住宅地の中に点々と残る、昔の大阪の風情を
		たどることができる。阪堺(はんかい)電車の電車道と平行して、旧熊野街道が南へ延びており、阿部王
		子の跡が「阿部王子神社」として残っており、「安倍晴明神社」も街道筋にある。ここからは歩いて10分
		もかからない。

		安部晴明が手下として使っている式神(職神)は「みつ虫」という名前だったが、あのドラマの作者はこ
		こを知っていたのだろうか。

 


		<お断り:>
		堺ウォーキングとなっているが、ここと安部晴明神社は堺市内ではない。大阪市阿倍野区である。同じ日に
		歩いたので便宜上このシリーズに納めた。あしからず、ご了承されたし。


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