SOUND:Eleanor Rigby
サントリー山崎工場(山崎蒸溜所)見学


		水無瀬神宮を見て、大山崎の歴史資料館を目指す。その前に、西本さんが大昔に見て感激したという妙喜庵を見たいというので探し
		ながら歩いていると、サントリー山崎蒸溜所へ来てしまった。ちょうど昼時で、ウィスキーで昼飯としますかと、受付で工場見学を
		申し込む。女性のGroup4,5人と一緒の組で、11時の見学が始まった所なので急いでくださいと言われ、エレベータへ駆け込む。







		この蒸溜所の中の道は公道である(上右)。昔からあった道の左側に蒸溜所があり、右側には記念品販売所や、ウイスキー製造の歴史			を紹介したウイスキー館がある。下は、この公道を入ってすぐ右側に残る、西観音寺・閻魔堂の跡だ。公道の突き当たりに西観音寺跡
		(椎尾神社)がある。蒸溜所のオッサンにこの寺の事を聞いたが、「地元の氏神様です。」と一言。・・・・・。

 



サントリー山崎蒸溜所

		一般的にはここはよく、日本のウイスキー発祥の地と紹介されるが、実はそうではないという意見もある。サントリーの創業者・鳥井
		信治郎が、京都郊外・天王山のふもと山崎峡に1923年、日本最初のウイスキー蒸溜所を建設したのは、ここが理想の水に恵まれていた
		からだとされるが、ニッカウヰスキーを創業した竹鶴政孝もここで働いていたのである。しかし製法上の意見の食い違いから、竹鶴は
		寿屋(現サントリー)の山崎蒸溜所を退社して、日本人初の宇宙飛行士毛利氏の故郷でもある、北海道余市に新しいウイスキーの理想
		郷を目指す。
		これは、竹鶴はあくまでも「スコッチウイスキー」の究極を目指し、鳥井は「ジャパニーズウイスキー」の普及を図った違いとも言え
		る。ウイスキーがあくまでもスコッチを持ってその頂点とするならば、確かにここは日本のウイスキー発祥の地ではなく、北海道余市
		がその発祥という事になるのかもしれない。しかし現在、世界中でウイスキーを本格的に製造している国は5ケ国しかなく、その意味
		ではジャパニーズウイスキーは既に広く公民権を得ているとも言えるのだ。確かにスコッチウイスキーとして飲む場合、サントリーよ
		りニッカの方が旨く感じる。しかしサントリーの「山崎」や「響」もまた、劣らずうまいウイスキーである。つまるところ、この議論
			の結論は、結局個々人の嗜好に左右されているのだろう。

		公式には、大正18年(1929)に本格国産ウイスキー第1号が、この蒸溜所から出荷された。その意味では、日本初のウイスキー蒸溜所
		はやはりここなのである。







蒸溜室


		麦汁にウイスキー酵母を加え、酵母は麦汁の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解しながら、独特の豊かな香味成分を生み出す。また、
		蒸溜所に棲む自然の微生物が働いて複雑な香りや味わいが誕生し、3日間の発酵後にできあがるのが「もろみ」である。味噌や醤油
		を作るときにできあがるものも「もろみ」と言うが、一般にモノが発酵してできあがるものはみんな「もろみ」と言うらしい。私が
		子供の頃、実家で味噌を造っていたことがあったが、父親はこの「もろみ」を飯に乗せて食べていた。

 


		もろみはアルコール分が約7%。これを2回に分けて蒸溜すると、次第にアルコール度数が上がり、香り高くなっていく。蒸溜釜は銅
		製のポットスチル。釜の形によって生み出される香りや味わいが微妙に変わるので、それぞれの蒸溜所ごとにユニークな形状が見ら
		れる。蒸溜したばかりのウイスキー原酒は「ニューポット」と呼ばれ、無色透明の液体で香りは芋焼酎に近い。これをホワイトオー
		クの樽に詰めて、貯蔵庫で熟成させる。長い時と自然の恵みによって、ニューポットは次第にまろやかな琥珀色のウイスキーへ変化
		していく。



樽詰場

 


		樽はウイスキーにとっては「ゆりかご」である。ニューポットを詰め込んで寝かせ育てる。じっとしていれば自然が一人前のウイス
		キーにしてくれる。くそ生意気な出来の悪い部下や、「頭ん中、どないなってんねん」というOLを詰め込んで熟成してやりたい。






貯蔵庫

薄暗い貯蔵室を案内してくれる山下さん。ホワイトオークの樽や、勤めを終わった樽材で作った家具も並んでいた。



 

ここには空調や換気などの装置は一切無い。温度も自然のままである。夏は暑く、冬は寒い。それがウイスキーを育てる。

 


		山下さんの話では、貯蔵庫にはウイスキーを見守る天使が住むと言う。樽の中のウイスキーは、10年熟成させると約4分の1が蒸発
		するそうで、それは天使が飲むからだそうだ。これを「天使の分け前」と呼ぶらしいが、ここの天使は相当な「飲んべ」だ。しんとし
		た雰囲気の貯蔵庫内で、原酒と樽の醸しだすかすかな香りに包まれていると、確かに天使が居るような気にもなるが、酒を飲まない人
		にとっては、薄暗いし、悪魔が住んでいると思うのかもしれない。 
 


		上はその悪魔に魅入られた二人。樽には樽詰めされた年ごとに年号(西暦)がふられている。自分の生まれた年はないかと探したが、
		さすがになかった。一般的には長くても20〜30年で出荷される。全樽を我々と同じような年まで寝かせていたら商売にはならない
		のかもしれない。前述の「天使の分け前」を、天使にやるのはもったいないと思ってか、一度、樽にビニールをかぶせて分け前を取り
		戻そうとしたらしい。しかしうまくいかなかったそうである。天使もただでは働かないのだ。

 

樽には白いプリントと黒いプリントの違いがあるが、これは「モルツ」と「グレイン」の違いだ。





中庭 −天王山湧き水−

		貯蔵庫から出ると、天王山からの名水が湧き出る小さな池がある。天王山のふもと山崎峡は古くから名水の里として知られている。
		山崎峡は、水瀬野(みなせの)と呼ばれ、万葉人が清流を歌に詠み、中世の王朝人は離宮(別荘)に集まって狩りや詩歌管弦に興じ
		た。千利休が茶を点てた山崎の名水はいまも竹林に湧き、ウイスキーの仕込み水に使われている。



		中庭を出て道路にでると西観音寺跡(現椎尾(しいお)神社)に出る。聖武天皇の御代に、行基によって建立された寺で、かっては
		相当な寺域を保有していたようだが次第に衰退し、明治になっての神仏分離令で椎尾大明神を祀る神社となった。現在は素戔嗚尊、
		聖武天皇、後鳥羽天皇を祭神とする。
 





瓶詰場

		製品となるウイスキーが瓶詰される。山崎蒸溜所では主に、プレミアムウイスキーや特別ボトルなどを瓶詰しているそうである。今日
		は土曜日でベルトコンベアーは動いていなかったが、手間のかかるボトルを中心に詰めているので、結構人の座る座席がならんでいた。
 





ボトルコレクション

 


		特注品のボトルが多いと言うだけあって、さすがに色んな瓶がならんでいる。なかにはこれがウイスキーの瓶かと思うようなモノも
		ある。下左の中段、真ん中あたりにある陶器状の瓶は、引退した3代目横綱若乃花の結婚式の引き出物に使われたもの。







【ゲストルーム】
見学の最後は、貯蔵庫を改修したゲストルームで「山崎12年」を飲ませてくれる。時間に制限はあるが、そのタイム中なら、ストレートでも山崎の水で割った水割りでも飲み放題。下戸の人や子供用にお茶やジュース(勿論サントリー製品)もある。
ストレートと山崎の水を交互に飲(や)るスコッチ風飲み方で、4杯もお代わりした。酒飲みにはこたえられない至福のひととき。ちゃんとおつまみも用意してある

ワイワイ飲んでいると、先ほど案内してくれた山下嬢が、水割りの作り方の説明を始めた。グラスにまず氷を入れて水を注ぐ。氷は出来ればカチワリがいい。冷蔵庫備え付けの製氷器ではなく、何か大きめのボールに入れた水をじっくり凍らせたモノがいい。白濁色の空気の泡が少ないものほど、良質の氷。これに出来るだけ名水と呼ばれる水を7分目くらいまで注ぐ。勿論氷も名水にこした事はない。
ここにいいウイスキーを静かに注ぐ。ドバドバ注ぐと、ウイスキーは下まで達してしまう。あくまでも、ウイスキーは上の方に浮かんだままにする。この後が肝心。絶対混ぜない!
混ぜたら普通の水割りになってしまう。ここで説明してくれているのは「旨い水割り」の作り方である。上に浮かんだウイスキーを飲む。2口3口飲んだらなくなるので、またウイスキーを注ぐ。確かに旨かった。なるほどなぁと感心し、後日、歴史倶楽部の例会でこの話をしたら、「井上さん、そりゃあんたメーカーの思うつぼじゃん。」
もっとお変わりをと思っていたら、「そろそろお時間ですので、後は向かいのサントリー館で続きをどうぞ」と言われて試飲の時間は終了。セルフサービスで片づけて、ほろ酔い機嫌で試飲室を後にする。



山崎ウイスキー館


		ウイスキー館は、蒸溜所開設当時から残る建物を中心に、見学者用に改造されたなかなか瀟洒な建物である。内装に樽材を再利用して、
		館内には、製造用の蒸溜釜や発酵槽のほか、壁一面に約7000種類のウイスキーや原酒が並べられ、過去の商品群や資料の展示、懐かし
		いコマーシャル映像も見ることが出来る。ウイスキーの心髄を体験できる。

 

上右は、蒸溜所を見守る創業者鳥井信治郎の像と、大正時代に使われた日本初の蒸溜釜(ポットスチル)。

  

		ウイスキー館のなかにあるショップにはオリジルウイスキーやこだわりグッズがいっぱい。ホワイトデーのお返しに「山崎」の入った
		ウイスキー・ボンボンを買った。1週間後、あげた娘からは、「山崎はおいしかったけど、チョコレートはまずかった。」とのご感想。

 


		トイレから戻ったら、西本さんが「井上さん、えらい人が来てはりまっせ。」と言う。見るとカウンター・バーのテーブルに、歴史
		倶楽部の松田さんが、噂の女(ひと)とちょこんと座っていた。最初知らない振りをして、顔を付き合わせても「どちらさんですか」
		などと白らばっくれていたが、「いやぁ、誰かに会うんじゃないかと思うとったんよねぇ。」

 
		バーでニューポットを注文する。蒸溜室で見学した、蒸溜したばかりのウイスキー原酒である。1杯100円。安さと強さに驚く。
		口と喉が焼けるようでウオッカのようだが、ウオッカに比べると甘みと香りがあり飲みやすい。聞けば飲みやすいように薄められて
		いるらしい。これは売ってもイケるのではと思ったが、これはウイスキーではなくその原料であるから原料は売れないという事だ。

 

		案内嬢といいカウンターのバーテン嬢(嬢という言い方は相当古いと思うが、どうもレディーと言う言い方は軽っぽいので好きにな
		れない。)といい、綺麗なお嬢さんばかりである。今の若い男性はいいなぁと思う反面、情けない男の多さに辟易している身として
		は、今の若い女性はかわいそうだなぁと言う気がしないでもない。しかし考えてみれば、何時の世でもその時その時の人・物・空気
		を包み込んで「時代」という大きな流れは流れていくわけで、それはそれで、「それなり」にうまくいくのだろうという気もする。




山崎蒸溜所への問い合わせ・見学の申込み:

電話:075-962-1423(受付時間9:30〜17:00)工場ご案内係まで。
交通手段 電 車:JR京都線山崎駅より徒歩で約10分。阪急京都線大山崎駅より徒歩で約12分。
自動車:名神高速茨木インターまたは京都南インターより国道171号線に出て約40〜50分。
(但し車で来社の場合は、ゲストルームでの試飲は断られる。その代わりお土産にミニボトルをくれる。旨いウイスキーを堪能したければ、ここへは絶対電車で来た方がいい。)




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